『島津製作所150周年記念アニメーション』福盛博一(アニメーションプロデューサー)インタビュー【前編】

島津製作所150周年を記念して制作された『島津製作所150周年記念アニメーション』。本作は、どのようなやりとりを経て制作されたのか。また、監督をはじめとしたスタッフはどのようなところにこだわったのか。本作でアニメーションプロデューサーを務めた福盛博一さんに話を聞いた。前後編でお送りする。
■こだわり抜いた京都の再現
――本作は島津製作所のプロモーションムービーという、従来と毛色の違った作品ですが、どのような経緯で制作が依頼されたのでしょうか。
福盛:島津製作所が150周年を迎える節目の年に、さまざまなことを企画されていたなかで、新しい挑戦の1つとしてアニメプロジェクトが立ち上がったと聞いています。そのうえで島津製作所のご担当の方がスタジオKAIの制作した作品が好きだったということもあり、うち(スタジオKAI)に直接声を掛けてくださったんです。
――企画内容の第一印象はいかがでしたか。
福盛:企業のプロモーションですから、お固いものを作ることになるのでは、と思っていたんです。これまで作っていたようなアニメファン向けではなく、頭身が高く、ビジュアルもリアル寄りな、かっちりした内容になるのだろうと。
――結果としては、頭身もふくめ、やわらかい印象の作品になっていましたね。
福盛:それは徳野(鉄雄)監督の方針でもありましたし、西尾(鉄也)さんのキャラクターデザインも大きく寄与していると思います。
――西尾さんといえば、『攻殻機動隊』シリーズや『NARUTO』など、アニメ界の重鎮と言っても過言ではないキャラクターデザイナーであり、アニメーターですよね。西尾さんにキャラクターデザインが決まったのはなぜなのでしょうか。
福盛:徳野さんの師匠なんですよ。いつか徳野さんが作品を請け負ったときに関わってくださるという話をしていたそうなんです。それで今作が徳野さんの初監督作品ということで是非ともお願いしたいという話になり、お二人の間で会話がありご参加いただけることになりました。
――ビッグサプライズですよね。
福盛:いや、本当にそうですね。まさかスタジオKAIの作品で西尾さんとご一緒することができるとは思っていなかったので自分も驚きました。
――徳野さんは初監督ですよね。これまで仕事でご一緒されたことはあったのですか。
福盛:初めてでした。弊社プロデューサーの西村(謙人)からの紹介だったんです。『すずめの戸締り』や『天気の子』などの演出やイメージボードを担当されている実績から「この作品に合っているのでは」と聞いて、「ぜひお願いしたいです」と。
――徳野監督の演出方針はどのようなものだったのですか。
福盛:昔の京都をふくめ、リアルに再現する方針でした。実際の写真も参考用に見たのですが、白黒で細部が分かりづらいものしか残っていなかったんです。それもあって、資料調査には相当時間をかけていました。島津源蔵さんが気球以前に作っていた発明品についても、時代背景を推定しながら描いていましたね。そういった緻密な設計をしていくと、1、2カットを担当する原画マンでは背景の統一性もカットの理解度もどうしても差が出てしまうので、原画があがってきたら徳野さん自身が背景を描き直していっていました。その結果、ほとんどの背景を徳野さんが描き直す、ということに(笑)。先日、完成試写で島津の本社に出向いたのですが、そのときに先方の役員の方から「特に明治の製作所の内部は、説得力のあるディテールでした」とお言葉をいただいて。監督の狙いは伝わったんだなと思いました。背景に加え、芝居についても相当修正を加えていましたので、監督でありながら最初から最後まで、本当にずっと絵を描き続けていた印象です。

――気球のシーンになるとキャラクターの目にハイライトが入りますね。このあたりの監督の演出意図としては、気球に対する希望のようなものを表現しようとしたのでしょうか。


福盛:そうですね。元々今回のデザインは、目のハイライトが入ってないのですが、これは西尾さんのこだわりで、カートゥーンのような雰囲気を意識していたらしいんです。一方で「演出的にハイライトを入れたい箇所は、やっていただいて大丈夫です」とのお話もいただいていたので、僕らもそれに応える形を目指しました。
あと、この気球が飛ぶところについては、キラキラした綺麗な演出になっていましたが、ここは徳野さんがこれまで培ってきた作品のノウハウから触発されての演出なのだろうと。演出も絵も処理も、しっかりと徳野さんらしさが出た作品になったと思います。
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