『島津製作所150周年記念アニメーション』福盛博一(アニメーションプロデューサー)インタビュー【後編】

『島津製作所150周年記念アニメーション』のアニメーションプロデューサーを務めた福盛博一さんに、作品へのこだわりについて引き続き話を聞いた。
■企業PRだからこその布陣
――そもそも今回島津製作所側からの制作上のリクエストはあったのですか。
福盛:いくつか先方から要望はありました。それもあって、とくに前半については「企画コンテ」の段階で、ドラマのパターンをいくつか提出したんです。「タイムスリップものにしよう」といったアイデアもありましたね。そこですり合わせていっていまのかたちになりました。
――「企画コンテ」というものを制作されたのですね。これは実際にアニメで使われたコンテと同様に、徳野監督が描いていたのですか。
福盛:いえ、これはADKのクリエイティブが描いています。
――ADKというとスタジオKAIの親会社ですよね。今作に関係しているのですか?
福盛: 企画の段階から先方の意図を細かく汲み取り、何度もやりとりをして、内容をすり合わせる必要があったので、そこに長けているADKのクリエイティブに入っていただいたんです。
――なるほど。
福盛:「企画コンテ」をADKのクリエイティブが作り、島津製作所側に提出し、戻しをいただいたら再度修正する。こういったやり取りを何度か行いました。アニメの絵コンテは一度できあがると、そう何度も描き直せるものではないので、クリエイティブの企画コンテでの推敲は本当に助かりました。
――クリエイティブとはどのようなやりとりをされていたんですか。
福盛:非常に真摯に対応してくださる方たちだったんです。企画コンテは阪脇(麻沙子)さんという方が制作したのですが、その方も相当研究してくださって、徳野さんと同じか、あるいはそれ以上に島津製作所のことに詳しくなっていました。
――後半の現代側に島津製作所の機器類が出てきますよね。あのあたりに研究の成果が出ているのでしょうか。
福盛:そうですね。企業の案件ですから、絶対に間違えてはいけない部分ですし、先方の意図に沿うように作らないといけないので、しっかりレイアウトを構築して間違いがないように意識していました。機器類のカットは徳野さんがレイアウトの大半を担当しているのですが、徳野さんの描く機器が非常に精密なものでもありましたし、加えて作画監督の椛島さんはメカ描きでもありますから、そういった機器を描くと自然と説得力が出てくると思っていました。
――島津製作所自体にも取材に行かれたのですか。
福盛:はい。実際に機器類も拝見しました。会社のなかを見せていただいたので、そこで見た廊下や部屋をアニメで再現したりもしています。
■椛島洋介らしさが光る「女の子のかわいさ」
――先ほどもお話に出た椛島さんは、近年『風都探偵』で監督業を務められていましたが、今回は作画監督という立場ですよね。お仕事ぶりはいかがでしたか。
福盛:椛島さんは今回の作品について「挑戦だ」と言っていました。
――どうしてですか?
福盛:じつはいままでやったことないジャンルらしいんです。それもあって大変そうなところもありました。今回キャラクターデザインが西尾さんですが、椛島さん自身も最近はキャラクターデザイン兼総作画監督が多いですし、そもそも今回は(総作画監督ではなく)作画監督なので、ご自身がキャラクターデザインを担当していない作品で、作画監督のみを担当されるのも珍しかったように思います。
――総作画監督と作画監督とでは、かなり違うものですか。
福盛:そうですね。普通の作品だったら作画監督が絵を整えてくださって、それが意図に沿うものであったら総作画監督は顔のニュアンスだけ調整すればいい場合もありますが、今回のように総作画監督というポジションを置かないなかでの作画監督だと、場合によっては全部描き直さないといけないんです。役職としての幅が広くなるんですね。
――逆に言うとそれだけ担当される範疇が広くなるわけですから、椛島さんらしさが存分に出ているのではないですか。
福盛:島津社員の女の子がとにかくかわいいんです(笑)。椛島さん自身のテーマとしては、自分の個性を出しすぎず、このキャラクターデザインに沿った上がりにする意図が今回あったんだと思います。徳野さんとは「こういう作画の方向性で監督意図に沿っていますか」と何度か絵を描いてやりとりし、チューニングしたうえで作画に入るという経緯もありました。ただ、それでもやはり女の子については「椛島さんだからこそのかわいらしさ」が出ていた気がします(笑)。

福盛:椛島さん関連で言うともうひとつありまして。相当量徳野さんが演出チェックで修正を入れるので、椛島さんがそれを踏まえて作画監督チェックの時に描きなおすことが今回は多かったんですよ。
――徳野さんの演出チェックがあって、そのあと椛島さんが修正をさらに入れるんですね。
福盛:ええ。これはかなり大変な作業だろうと思ったのですが……「徳野さんのようなお上手な方の修正を拾うのはすごく楽しい」とおっしゃっていたんです。
――そこまでいくと、我々ではイメージできない発想ですね(笑)。
福盛:(笑)。椛島さんは常々、他の方から吸収しようとする意欲が強いんです。今回も同様だったのだと思います。
■島津製作所の社員にも喜んでもらえるフィルムに
――福盛さん自身がこだわったところはありますか。
福盛:モブのシーンはこだわりました。
――気球を飛ばして盛り上がる、ある種のクライマックスシーンですよね。
福盛:あそこはうちのアクションアニメーターの2トップである式地(幸喜)さんと木村(和貴)さんに描いてもらったんです。今回、作画の割り振りをする段階で、僕はずっと「この作品の裏の主役は気球が飛んだ直後のモブだ!」と言っていたんです。ここにスタジオKAIの最高戦力をぶつけよう、と思ってお願いしました。そのおかげで華やかで素晴らしい仕上がりになったと。スタジオKAIらしい地力も見せることができたように思います。
――ほかに印象に残っているところがあれば、お聞かせください。
福盛:終盤で強く印象に残っているのは撮影です。今回V編の前日に全部終わっている状態に持っていけたんです。
――それはかなり早いペースですね。
福盛:ええ。リテイクも全部終わっている状態だったのですが、これは撮影監督の原田(翔太)さんのおかげだったんです。「このカットについては、指示が難しいから直接相談に行きたいです」という話をその少し前にしていたんですよ。それで僕と監督とで原田さんのところに行ったんです。そのとき原田さんから「ほかのカットも全部一緒に見て今日中に調整しましょうか」とお話をいただいて。長い時間一緒に見て、微調整を繰り返すことで40数カットを一日で完成まで持っていけたんです。それがあったのでV編前日の段階で全カット完成している状態になったんですね。
――そこで一気に詰めたわけですね。
福盛:原田さんが「ここで監督と一緒に終わりに持っていったほうがいい」という判断をしてくださったおかげです。あそこで終わらせられていなかったら、もしかしたら納得の行く形で終わらなかったカットもあったかもしれない、とも思いますので、すごく感謝しています。
――撮影監督の前で付きっきりで相談することは、本来ないわけですね。
福盛:「該当カットについて立ち合いでやらせてほしい」ということはあります。ただずっと付きっきりでやることは少ないと思います。少なくとも僕はやったことがなかったです。ちなみにこの撮影さんは4月からスタジオKAIの社員になるんですよ。だからすごく心強いですし、頼もしいと思います。
――今後のスタジオKAIの作品がますます楽しみです。最後にこのPVをご覧いただくにあたって、視聴者に伝えたいことがあればお聞かせください。
福盛:まずアニメを楽しんでもらいたいと思います。そして「島津製作所ってどういうことをしている会社なんだろう」と興味を持っていただけたら本望です。
それと今作の個人的なテーマとしては、島津製作所の社員の方々に喜んでいただける映像にしよう、という思いを強く持って制作していましたので、そういう作品になっていたら嬉しいなと思います。

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