STUDIO KAI 櫂

『スーパーカブ』 美術監督 須江信人、畠山佑貴インタビュー【前編】

 両親も友達も趣味もない、「ないないの女の子」小熊。そんな彼女の単調な生活は、ふと見かけた中古のカブを買ったことで、少しずつ変わり始める――。
 現在放送中の角川スニーカー文庫にて刊行中のライトノベル原作作品『スーパーカブ』。
 第6回となる本取材では、美術を担当した草薙【KUSANAGI】への取材を敢行。制作初期の準備段階から本作に携わり、第1話の美術監督を務めた須江信人と、その後美術面の取りまとめを行った、同じく美術監督の畠山佑貴にお話をうかがった。前後編でお送りする。



2021年5月27日(木)

●公式サイト
https://supercub-anime.com/


会社の看板作品にするつもりで

――本作を引き受けられることになった決め手はなんだったのですか。
須江 自然物を描けることですね。部屋や建物のなかは、描き方を習得していくと一定のレベルに到達できるんです。つまり、努力すればある程度誰でも描けてしまう。でも、自然物は最終的にセンスも必要になってくるんですよ。そこを磨くいい作品だなと思っていて……会社としては、若干チャレンジでもありました。
畠山 「草薙という会社の看板作品にするつもりだ」と聞いていました。だから、プレッシャーもあったんです。いっぽうで、じっくり時間かけて描けるとも聞いたので、楽しみにもしていました。実際のロケーションがあるものなので、誰かが見たときに「どうも違うな」と思われたら嫌ですよね。そこをしっかり再現することを心がけました。
――美術の方向性はどう考えられていましたか。
須江 出発点は、弊社のあるスタッフの絵だったんです。この美術スタイルなら、藤井監督も納得してくれるだろうなと思っていましたし、実際クリアできました。そのスタッフは後に退社することになり、そのスタイルに近しかったチームで進めていくことになったんです。
具体的には、「形をシンプルに捉えたうえで一番大事なところを描く」。そんな手法を採りました。シルエットを重視しつつ、遠近感を的確に捉えるんです。社内の人間に、そういった自然物の捉え方を共有して欲しいなと思っていて。
――つまり、昨今の美術によく見られる「描きこんでリアルに見せる方向」ではないのですね。
須江 はい。どうしてもデジタルになると、コピペ(コピー&ペースト)を使用して密度をあげていきがちなんですよ。でも、絵の本質って本来そういうものではないのだと。だから、どこまで物体の情報を抽出するか。そのものの「らしさ」を残しながら、省略するところは省略して、絵の気持ちよさを狙いたかったんです。色についても同じことで、たとえば、木一本に対しての色数を3、4色に抑えているんですよ。多く陽が当たる面、ちょっと影が落ちる面、さらに暗い面みたいなイメージで描いているんです。
畠山 描きこまないから簡単になると勘違いされがちなのですが、実際は見せるところだけを描き込むのも、なかなか難しいんです。たとえばこの電線なんかは、ツタのように見える部分をちゃんと描くことで、これが電柱だと表現しています。

須江 密度でごまかせない分、Photoshopであってもタブレットのペンさばき……つまり、タッチの雰囲気が重要になってきたりと、難度はあがるんですよね。
あとは、日本の植生なので、熱帯雨林のようなねちっこい感じではなく、サラッとしてて美しいのがいいなと思っていました。作品をご紹介いただいたときに、監督がいろんなイラストレーターさんを提示してこられたんです。そこで「これは会社としてもしっかりやらなくちゃいけないな」と思ったんです。

つい「描き過ぎて」しまう

――デジタル的な密度感ではない方向性となると、手描き的な感覚というのも狙っているのでしょうか。
畠山 そうですね。場合によっては、いちから手描きするより、デジタルで手描き風にするほうが、時間がかかることもあるんですよね。ですから、後々の話数やスケジュールが詰まってきたときに、どうしても描き込んだ素材を流用して乗り切ろうとしがちなんです。でも、『スーパーカブ』の場合、そういった流用素材を一切作ってないんですよ。
――そうなのですか。
畠山 全部描きなんです。その分時間はかかるのですが、見たときに「いいね」となるでしょうし、スタッフには手描き風に憧れている人も多くいますから、モチベーションは高くやれるんですよ。
須江 こういった作品に関われるせっかくの機会なので、ある程度描き方のハウトゥーを見つけていってもらえればと。ただ、どうしても十人十色で上がってきてしまうので、コントロールは大変です。回し始めたときに、誰がどういう絵を描くかを把握していくところからコントロールしていくんですよ。向き不向きをちゃんと考えないといけないという意味では、他の作品よりもよりシビアですね。
畠山 意外とみんなつい描き過ぎてしまうんですよ。その描き過ぎの方向性がみんな違うから……。直しは大変でした(笑)。

北杜市の日常感

――今回はロケハンにも行かれたんですよね。
須江 はい。かなり初期の段階でのロケハンだったので、美術からは僕だけが同行しています。夏の甲府へバイクに乗って行きました(笑)。
畠山 ロケハン写真は、とても有用でした。実在する場所を指定されるので、グーグルマップで周辺を見つつ、その写真を見て、どういう建物が立っているかなど確認しましたね。田んぼや2階建ての建物が多いなといったことは、ロケハン写真があったからこそ分かることでしたね。
――学校の教室の後ろに、電子レンジが置いてありますが、実際にあったのですか。

須江 電子レンジはなかったですね。その代わり、歯ブラシを殺菌するためのケースがあったんですよ。小熊がレトルトを温めるシチュエーションのために、電子レンジにしたのですが……。あの電子レンジはすごく細かいオーダーがあったんです。
畠山 監督がそういった物の写真はどんどん用意されて(笑)。
須江 小熊の部屋もそうでしたね。

畠山 レトルトの並びの種類も指定があったんです(笑)。しかも、レトルトの種類はなかなか(張り込み用の)データがこなくて……。
須江 ずっとカゴが空のままだった(笑)。監督だけではなくて、原作者のトネ(・コーケン)さんからも、イメージされていた資料が来るわけですよ。藤井さんが、さらにセレクトを重ねていて、混在して入ってきたりもしたから、大変でした。
――なるほど。ちなみに、トネさんもロケハンに来ていらっしゃったんですよね。
須江 ええ。ずっと一緒だったんです。だから「原作者の方も思い入れがあるタイトルなんだな」と思えて。美術をないがしろにできないタイトルだと思えたのは、そういった理由もありました。
――コンビニなどは実在するものではなく、架空の店舗を作っているわけですよね。
須江 ええ。カラーリングや社名を含めて、それをいかにもコンビニだけどどこにも属してない感じにするかがポイントでした。

畠山 このボードは、手前の道路に生えている草がポイントですね。実際に道路に生えている植物をいろいろ入れ込んでいます。いわゆる手が切れるような細いタイプの草だけ描いて終わりにすることが多いのですが、今回はちょっと背の高いやつを混ぜてみたりしました。そのうえで、ちゃんと道路の隙間になっているところなど、ちゃんと生えるべきところから生やしています。
須江 それと、このボードでいうと山の岩肌もポイントです。これ、七里岩っていって、けっこう有名なんですよ。実際に岩が露出してる高台があって、原図には描かれていなかったので、申し送りをするときに僕が作業者の方に説明していたと思います。これは藤井監督がこだわっていたんです。夏場になってしまうと、あまり見えないんですよね。露出している部分が茂ってしまうんです。
畠山 ここは岩肌がほしいですと、リテイクがありました。
須江 (舞台となった山梨県の)北杜市の方にとってみると、これは日常の風景なので大切にしたところです。

「ヤバさ」を感じた指摘

――ほかにロケハンが活きた箇所はありますか。
須江 ボード作業者によく言ってたのは、東西南北はちゃんとロケーションを合わせてほしいと。見栄えがいいからと適当に描いてしまうと、本来夕日があたってるのにそう見えないなど、リアリティに則さないものになるので。
――そこは見栄えではなく、リアルを採ったのですね。
須江 そうなんです。作品によっては監督がロケ通りにしないこともあるんです。実際の場所と雰囲気が変わってしまうのですが、それでもいいと言われることはあります。
でも、藤井監督に関しては、決してそういうことはありませんでした。実際にその場所に行けば、午前も午後も映像と同じように見えるはずです。
――いま藤井監督のお話が出ましたが、監督から美術について指示などはあったのですか。
須江 たくさんありましたよ。作業の途中で手違いがあって、色味が変わってしまった部分があったんです。それをボード制作者自身が、以前の色味に合わせて修正したのですが、藤井監督に見せたら「色味が以前と微妙に違う。前のもののほうがよかった」と(笑)。
――作業者本人が直したのにですか。
須江 これは……ちょっとヤバさを感じました(苦笑)。「タダ者じゃないな、藤井監督」と。つまりは、作業者以上にそのニュアンスを汲み取ってくれていたんですよ。おそらく、藤井監督以外の誰が見ても、まず気づけないんじゃないかと。
畠山 本当に微妙なところだったんです。
須江 ただ、あまりに敏感だったので、「ダメ出しが多すぎると(作業者の)モチベ―ションが下がってしまいます……」といったお話もしましたね。それからというもの、監督の修正には「素晴らしい。いつもありがとうございます」といった枕詞が必ず付くようになりました。でも修正は容赦なく出すのですが(笑)。それらも、本当に微妙なニュアンスのものが多かったと記憶しています。それだけ、美術については大切に考えてくださっていたのだと思いますね。

2021年5月5日 株式会社草薙 会議室にて

インタビュー後編はこちら

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