『骸骨騎士様、只今異世界へお出掛け中』 菊池たけし(シリーズ構成)インタビュー【前編】
『骸骨騎士様、只今異世界へお出掛け中』 菊池たけし(シリーズ構成)インタビュー【前編】
目覚めるとMMORPGで自身が使用していたゲームキャラの姿のまま、異世界に放り出されていた「アーク」。その姿は、見た目が鎧、中身が全身骨格という”骸骨騎士”であった。
──正体がバレたら、モンスターと勘違いされて討伐対象になりかねない!? アークは目立たないよう傭兵として過ごすことを決意する。だが、彼は目の前の悪事を捨て置けるような男ではなかった!
現在放送中のTVアニメ『骸骨騎士様、只今異世界へお出掛け中』。本作でシリーズ構成・脚本を務める菊池たけしに、原作をアニメ化するにあたって意識したことを中心に話を聞いた。前後編でお届けする。
2022年5月13日(金)
■ファンタジー世界に入り込んだ感覚
――菊池さんはテーブルトークRPGなどのゲームデザイナーとして広く知られていますが、アニメだとこれが初のシリーズ構成になるのでしょうか。
菊池 30分アニメのシリーズ構成としては初めてです。ゲームや短尺作品、あるいは自分が原作を担当していたTVアニメ「ナイトウィザード」で1話だけ脚本を担当したことはあったのですが……。
――では、脚本未経験ではなかったのですね。それにしても一足飛びでシリーズ構成という重責を担われた印象があるのですが、これは一体どういう経緯だったのですか。
菊池 スタジオKAIのプロデューサーの金子(文雄)さんが、さっき話した「ナイトウィザード」のプロデューサーだったんです。それ以来、飲みに行く仲になったのですが、一昨年の1月くらいに相談があると呼ばれまして。某作品の続編を作っているんだけど、そのシナリオに途中から参加してくれないかと。
そのときは「必要とあればお手伝いします」と話をしたんです。で、しばらくして金子さんがまた会いましょうと。そうしたら、紙袋にぎっしり「骸骨騎士様」の原作小説とコミックが詰め込まれていて(笑)。そこでおもむろに、「この作品のシリーズ構成と脚本をやりませんか」と。
――続編の話と思ったら、新作の話だったんですね(笑)。
菊池 驚きつつ悩んでいると、満面の笑顔で「実はもうクライアントの内諾は取れています」って。それがきっかけでした。
――(笑)。原作を読まれての、第一印象はいかがでしたか。
菊池 原作小説もコミックも両方を読んだのですが、どちらもおもしろいなと。キャラクターが立っていて魅力的で、冒険の様が活き活きしていて好みの作風だったんですよ。それに自分は「D&D(ダンジョンズ&ドラゴンズ)」が流行し、「ロードス島戦記」が始まった80年代中盤から、ずっとファンタジーが好きで、仕事もTRPGがメインでしたからね。
――そことの親和性もあったと。
菊池 そうですね。でも、ただそれだけじゃなくて、この作品は自分と同じくファンタジーRPGが大好きな主人公の目線からファンタジー世界を捉えているじゃないですか。そのゲーム知識をもってファンタジー世界を冒険していくというのが、自分としては親近感がわくと申しますか(笑)。
――ああ。じゃあまさに菊池さん自身がファンタジーRPGの世界に入ったかのように捉えられたのですね。
菊池 そういうことです(笑)。
――実際にアニメの現場に参加されるにあたって、これまでのお仕事と違ったところはありましたか。
菊池 普段の仕事でも、書くときには頭の中で映像を想像するものなんですよ。こんな風になるはずとイメージしてね。で、アニメでも同じように台詞やト書きを書くのですが、やっぱり映像を作るプロの目から見ると、そのイメージそのものが違っているんだなと思わされました。より正確に言えば、自分よりはるか上の目線でセリフと映像の完成イメージを持っておられるんだなと。小野監督からはそのあたりを指摘されることが多かったです。
監督のインタビューでも言及されていましたが、毎回「こんにちは、アークです」を入れましょうと言われたんですよ。正直脚本会議のときは、それがどういう効果をもたらすのか、あまり理解してなかったんです。でも、実際に放送されたアニメを見て「あ、これいいな」と思えたんですね。語りかけることで、視聴者と同一目線になれる効果もあって、小野監督はやっぱり映像のプロだなとあらためて思わされました。
――では、実際にシリーズ構成を書かれる際、ポイントに置かれたのはどこでしたか。
菊池 極力原作の内容を変えないことを第一にしたいと思いました。変えないとは、一言一句同じにするという意味ではなく、ファンががっかりすることはしないと。自分はこうしたいと思っても、独自の解釈は入れず、必ず原作要素から……あるいは原作の魅力の延長上にある補足のみでシナリオを組み立てようと考えたんです。
ただ、今後も続いていく原作と違って、アニメは1クールで何らかの形で終わりを見せなきゃいけないじゃないですか。具体的には、誰とは言いませんが……ラスボスになるキャラ。長い原作の「途中」であれば成立するけど、1クールというひとつの物語の締めを担うボスキャラとして成立させるためには、追記、補足、修正をせざるを得ない部分がどうしても出てくる。そのうえで、ひとつの物語として面白かったで終わらせたいとは思っていたんです。
――しかしアニメ化の範疇でまとまりを作るとなると、原作を変えざるをえないのではないですか。
菊池 それは極力したくない。だから、原作であるエピソードのなかで、どうドラマとして成り立たせるかに注力しました。そのうえで、脚本会議でみんな頭を悩ませて、原作の秤(猿鬼)先生から頂いた、あるアイデアにヒントを得て、最終回への持って行き方とそこまでの積み方を構成したんです。ただ、そのあたりは完全にネタバレになりますので、ぜひ最終回までの推移を、皆様で見守っていただけると嬉しいです(笑)。
――なるほど(笑)。では、そこは楽しみにしています。
菊池 もうひとつ、シリーズ構成上ポイントに置いたのはアリアンの存在でした。この作品世界におけるドラマとしてテーマを何にするかと考えたときに、原作内容に添うと必然的に「人族とエルフ族との関係性」になるんです。であれば、エルフ族でありヒロインであるアリアンの立て方を考えなくちゃいけない。でも、原作だと彼女は序盤に出てこないんですよ。アニメでもそのままやると3話とか4話くらいで登場することになってしまう。
――それはまだるっこしいですね。
菊池 ええ。ドラマのアイコンとなる存在を1話で登場させたかったのと、合わせてそのキャラクターが抱えている、作品自体のテーマになる想いを提示しておきたいなと。それで1話の路地裏シーンを追加したんです。そこではただ彼女を登場させるだけではなくて、テーマを提示するため、エルフ達を迫害している描写を見せ込もうと。アリアンは何らかの目的があって情報屋に接触していて、でも「エルフ風情が」といった感じで蔑ろにされている。そんなこの世界の基本概念を入れてみたんです。ヒロインならヒロインたる何かを冒頭から見せないといけないと思ったんですね。
――なるほど。しかし、序盤はそれでいいとしても、アリアンを軸にその後のドラマを形成するのは難しかったのではないですか。
菊池 そうなんですよね。アリアンは迫害されているエルフを解放するという外向きの目的はありますが、一方でヒロインたるものが持つべき自分自身の内的な解決すべきドラマをそれほど抱えていないんです。じゃあどうすればヒロインとして成立するのか、構成をいじりながら考えて。で、アリアンは自分の「強さ」に関して、コンプレックスを抱いている描写が原作にあるので……。
――そこをアリアンのドラマの軸にしようとされた。
菊池 そうです。でも、コンプレックスを抱えているだけでは、1クールもののヒロインとして成立しない。何らかの成長や帰結点を見せることが望ましい。なので、コンプレックスを抱いて頑張ろうとしている彼女の姿を描き、それがアークとの冒険のなかでどう変化するのかを追っていくドラマにしようと思ったんです。例えば1話に登場するときはツンツンしてるじゃないですか。あれは、世界や状況に対する不満を抱えているからなんですね。だから原作やコミカライズでの登場時よりも、少しダウナーにしたんですよ。「人間なんかを信じない感」を強調し、それをアークにぶつける(=第3話のアークとの戦闘シーン)。そんな負の感情を序盤に見せたほうが、アークとの冒険の中で、心情が変化する過程・成長をわかりやすく追え、結果ドラマとしてはカタルシスが大きく発生するだろうとの計算なんです。
――では、原作ファンのなかには、序盤のアリアンについて違和感を抱えた方もいるかもしれませんね。
菊池 そのリスクはあります。でも、仕組みとして上手くいってくれるはずだと。このあたりも原作を改変するのではなく、その要素をどう見せるのかで頭を悩ませた部分だったんです。
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