『骸骨騎士様、只今異世界へお出掛け中』 上間康弘(制作プロデューサー)インタビュー【後編】
『骸骨騎士様、只今異世界へお出掛け中』 上間康弘(制作プロデューサー)インタビュー【後編】
目覚めるとMMORPGで自身が使用していたゲームキャラの姿のまま、異世界に放り出されていた「アーク」。その姿は、見た目が鎧、中身が全身骨格という”骸骨騎士”であった。
──正体がバレたら、モンスターと勘違いされて討伐対象になりかねない!? アークは目立たないよう傭兵として過ごすことを決意する。だが、彼は目の前の悪事を捨て置けるような男ではなかった!
TVアニメ『骸骨騎士様、只今異世界へお出掛け中』シリーズインタビュー、第11回となる今回は、制作プロデューサーを務めた上間康弘に引き続き話を聞いた。
2022年7月3日(日)
■「ドヤ感のないお芝居を」
――主人公であるアークのキャスティングについては、どのような経緯があったのでしょうか。
上間 アークは秤(猿鬼)先生が、元の世界の人物像を原作執筆時にふんわりと設定されていたそうなんです。それが“初対面の人と話すことにも抵抗はなく、わりと聞き上手な面がある”、“年齢25~30ぐらいのサラリーマンで、チーム内では人との繋ぎ役になることが多い”、“趣味がゲームで、オタクコンテンツも嗜むがライトな感じ”といったものでした。顔合わせ兼ねての音響関連のキックオフミーティングで、そんなお話の共有を受けまして、なんとなくアークというキャラクターの解像度が増した気がしたんです。そのイメージを意識しつつ、いっぽう実際に本編で描く異世界では騎士然としたロールプレイも演じるキャラクターなので、そのあたりをしっかり演じ分けできる役者さんにお願いしたい。そのうえでアークの重要な特徴のひとつである嫌味のない――つまりは、ドヤ感のないお芝居ができる方で。それがその打ち合わせで交わされている話を聞きながら、頭の中でぼんやり考えていたことです。
――なるほど。
上間 じつはそのとき「だとしたら前野(智昭)さんにお願いできたら、いけちゃうんじゃないかな」と内心考えてもいました。とはいえ、皆さんのご意見もありますし、色を付けてオーディションをするのもよくないと思っているので、特に何も言わずにいて。音響制作のダックスプロダクション吉田(健人)さんにだけ「可能ならば前野さんにもオーディションにご参加いただきたい」とお願いしていました。
――そうだったのですね。
上間 踏まえて、オーディションテープをメインスタッフで聞かせていただいて。もちろん、他にも良い方はたくさんいらっしゃいましたが、結果、割と自然な流れで前野さんにお願いすることになりました。
――では、やはり上間さんのイメージ通りだったわけですね。
上間 そうだったのかもしれませんが、なにより前野さんがハマリ役だったことに尽きると思います。小野監督も(インタビューで)そうおっしゃられていましたよね。実際、この作品ではアークのあの「良い性格」をいかに描くかがポイントのひとつだと思っていたので、そこにピッタリとハマった気がします。
――ゲストキャラクターで印象に残ったキャストはいますか。
上間 アリアンの母親であるグレニス役の皆口(裕子)さんは、私からのリクエストでした。キャラ的にグレニスって、アークに次ぐ「良い性格」の持ち主だなと思っていたので、そのあたりをちゃんと立てたいなというのが前提にありつつ。あとは、グレニスって17歳教なわけですよ。なので特徴を付けていただける方にお願いしたいなと思って、もしお願いできるのならぜひ皆口さんにと。ただ、本当に一回きりのご出演だったので、もうちょっと聞きたかったなって……。これは少しファン目線かもしれません(笑)。
それと、第10話に出てくる宿屋の女将は原えりこさんなんです。なんでも、声優業を長らく控えられていたそうなんですが、「スーパーカブ」のときにご自身が相当なカブ主(熱心なスーパーカブのオーナーのこと)だったこともあって、自ら立候補してご出演いただいた経緯があったそうなんです。それ自体に私は関わっていませんでしたが、そのことを後に聞いて。ただ、せっかく繋いでいただいたご縁なのに、その一回きりで切れてしまうのも何だか寂しいなと思っていました。そんななか、その宿屋でのお芝居が、「ドラゴンクエスト」の超有名なセリフリスペクトだったんですよね。というより、コンテ時に悪乗りして、そうしてもらったんです。「ゆうべはおたのしみでしたね」と。もちろん、ゲームオタクであるアークの人物像の延長であり、この世界感に花を添えるためにですよ(笑)。で、このセリフを誰に言ってもらえばいいんだろう? と思った時に、原さんのお名前が自然と浮かんできたんです。存在感が欲しい。でもキャラ的に立ちすぎてもいけないなという絶妙なラインを狙って。
――「スーパーカブ」のお話が出ましたが、今回の美術は同様に草薙さんでしたね。
上間 はい。「スーパーカブ」では素晴らしい背景を提供してくださったので、この作品もぜひお願いしたいと思って。あと、昨今のアニメーションにおける美術制作キャパシティって絶対的に不足していて奪い合いになることも多くて。そんななか、草薙さんのような体力のある会社とお付き合いさせていただくことは、制作体制の安定に直結すると思うんです。美術監督の坪井(健太)さんをはじめ、草薙の皆さま方には色々とご迷惑をおかけしてしまったところも多分にあり、申し訳ない限りでしたが、最後まできっちり仕上げていただいて本当に助かりました。
――ほかにスタッフィングでいうと、3DCGで参加されたオーラスタジオの広沢(範光)さんとはご友人だったそうですね。
上間 もう、10年来の飲み友達です。私の前職のサテライトさんは基本3DCGが内製だったので、外の会社にお願いすることはなかったのですが、とあるゲームのPV制作を請け負ったときに社内CG班のリソースがさけないという状況があって。そのとき彼が3DCGの会社を立ち上げていたことを思い出したんです。個人的には友人と仕事をするのは、周りにも余計な気を遣わせたりとか、いろいろと思うところがあるので少し悩みもしたのですが、PVというスポット案件ならば、そういうこともあまり気にしなくていいかと思って。そしてなにより、彼が人格者だったので大丈夫だろうなとも。結果、そこですごく手応えがあったので、「次はシリーズをやりませんか?」とお願いしました。ただ、どこまでをCGにするかは、プロデュースもそうですが映像演出の領域でもあるので、そのときは具体的なCGの活用方法まで詰めていなかったんです。当初言っていたのは馬車ぐらいでしたかね。
――そのあと、どうして本作のような3DCGの使い方に行きついたんでしょうか。
上間 監督に小野さんを迎えることになり、あらためて作品のプロデュースをし直すタイミングで、とあるTVアニメを見ていたんですよ。その作品がメインキャラクターでも引きだと3DCG、という手法を取り入れていて。でもその手法自体は、これまでもいろんな作品で取られてきていたと思うので、特別なことでもないかなと。それよりも、そのときに自分の中であった問題意識はとても単純で、引きの絵でキャラクターが崩れると萎えるんだよなというものでした。ただ、実際のところ制作工程がひっ迫した際、作監さんだったり総作監さんに優先して手を入れていただきたいのは、どうしても寄りの画が中心になってしまう。では、引き画を3DCGでフォローできれば、理屈上は制作体制も含めた全体的なバランスを安定させられるだろうなと。特に主役のアークがメカ作画の範疇でしたし、それもあって踏み切った感じですね。ただ、考え方的に作画のバックアップのようなお仕事になるので、CGクリエイターの方からすると、あまり面白くはないかもしれないなと。だから手法としては存在するものの、あまり採用されていないのかもしれません。ですが、今回はオーラスタジオさんが快く引き受けてくださって。
でも、結果としてはそれだけでなく、いろいろとお願いをしてしまいました。世の常で予算が潤沢にあるわけでもなく、「あまりお金はないのですが、何かお知恵を」といったようなご相談をさせていただくことも多々あり。(馬車の)御者を3Dで作る必要が出てきたときに、たまたまアリアンがローブのフードを目深に被っているモデルがあったので、その色と、顔を汎用モデルに変更して作っていただいたりとか。これは、オーラスタジオさんから、「これなら最低限のカロリーできます」とご提案してくださった結果でした。他にも当初予定のなかったことをたくさん、臨機応変にフットワーク軽くご対応いただいて、本当に感謝しきりです。
――本作ならではの特殊な制作方法があれば、お聞かせいただけますか。
上間 技術的には、それほど難しいことをしているフィルムではないと思うんですよ。それに枚数が多いわけではないですし、カット数でいえば、第1話なんて200カット強ぐらいですからね。そのわりにテンポ感も良いんじゃないかなと。そこは本当に小野監督のお力だと思います。それと、音楽の力も大きかったと思います。
――音楽発注に上間さんは参加されたのですか。
上間 そうですね。ただ、中心は音響監督の本山(哲)さんと小野監督です。劇伴については、まずメインテーマを「暴れん坊将軍」というイメージで着手していただいたのですが、これはもう必然で。前編でお話した「異世界時代劇」的な作品性に、音楽も寄り添っていっていただきました。あとはキャラクターやシーンごとの感情に付ける楽曲を本山さんがディレクションされて。そのイメージをもとに音楽のebaさんと伊藤翼さんに素晴らしいものを仕上げていただきました。かなり物語を引っ張ってくださったと思います。
――音楽というと、オープニングの印象も強いです。
上間 監督のインタビューにもありましたが、小野さんはずっと「俺たちは天使だ!」とおっしゃっていて。打ち合わせでも、そのあとの個別の相談でも、「アーク(ファンタジーオタク)のロマンを表現したいんだ」って、本当にずーっと(笑)。ちなみに打ち合わせでは、「じゃあ『(宇宙刑事)ギャバン』のオープニングとかもいいですね」とか盛り上がったりもしました。ただ、(音楽プロデューサーを務めた)ポニーキャニオンの野島(鉄平)さんは、30代後半ぐらいなので、あまりその洗礼を受けてなかったようで、キョトンとしていた気がします(笑)。でも、上げてくださった楽曲は完全にこちらの意図通りというか、それをはるかに超えていて、「野島さん、あれで分かったんだ? 本当に凄いな……」と感動すら覚えました。
――YouTubeでの活躍が有名な、ノルウェーの歌手であるPelleK(ペルケイ)さんを起用したのは……。
上間 野島さんです。歌い手さんについても相当に色々と考えておられたと思うのですが、PelleKさんは、日本のアニソンがお好きでご自身のYouTubeチャンネルでひたすら歌っておられるという背景も含めて、とてつもなくエモいなと思いまして。野島さん、楽曲に続いてなんて凄いカードを持ってくるんだ? と、ただただ驚きでした。そして、すぐに小野監督に「ぜひこの方で」とお話ししたら、即GOサイン。で、あの絵コンテなわけです。だから、(「新世紀エヴァンゲリオン」にたとえると)『嗚呼、我が浪漫の道よ』という名の初号機があって、そこにPelleKさんというサードチルドレンが届き、小野監督の画コンテという起爆剤が暴走を招いて、私的には「勝ったな」って(笑)。
また、オープニングのフィルムが仕上がるタイミングで、「歌詞を載せたいです。ルビ付きで」とお話ししたら、オーバーラップの原田(直樹)さんが「SEを入れましょう」とおっしゃって、いざダビングの際に、「アークの笑い声も入れてはどう?」と本山さんが乗っかって(笑)。
――随分エキサイティングだったんですね。
上間 こんなふうに、今回は制作にあたって同じ方向に向かって、みんな和気あいあい、楽しく作れた作品だったと思います。その楽しさを、視聴者の方々に少しでも受け取ってもらえていたら嬉しいですね。
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