『骸骨騎士様、只今異世界へお出掛け中』 菊池たけし(シリーズ構成)インタビュー【後編】

『骸骨騎士様、只今異世界へお出掛け中』 菊池たけし(シリーズ構成)インタビュー【後編】

『骸骨騎士様、只今異世界へお出掛け中』 菊池たけし(シリーズ構成)インタビュー【後編】

 目覚めるとMMORPGで自身が使用していたゲームキャラの姿のまま、異世界に放り出されていた「アーク」。その姿は、見た目が鎧、中身が全身骨格という”骸骨騎士”であった。
 ──正体がバレたら、モンスターと勘違いされて討伐対象になりかねない!? アークは目立たないよう傭兵として過ごすことを決意する。だが、彼は目の前の悪事を捨て置けるような男ではなかった!
 現在放送中のTVアニメ『骸骨騎士様、只今異世界へお出掛け中』。前編に引き続き、本作でシリーズ構成・脚本を務める菊池たけしに話を聞いた。

2022年5月20日(金)


■ポンタ役のために生まれてきた

――後編はキャラクターを中心にお話をうかがっていければと思います。まずはチヨメについて苦労されたことなどおうかがいできますか。
菊池 あまり困ってないんですよね……(笑)。忍者、子供っぽいキャラクター、でも大人っぽい口調で、ケモミミ。属性だらけで、ちゃんとドラマも背負っている。だから、無理にいろんなことを補足や付加する必要がまったくなくて。戦闘シーンを含めてかっこよく書ければいいなと思ったくらいです。
――ではポンタについてはいかがでしたか。
菊池 まず困ったのは、コミカライズ版での進行割り振りだと、登場が3話になってしまうことでした。マスコットキャラクターはアークとの珍道中を象徴するキャラクターだから、早めに出さなきゃいけない、と思って2話に入れ込んだんですよ。3話に入れる手もなかったわけではないですが、アリアンが動き出す話で、視聴者の意識がポンタと分散してしまうので、別の回に分けたかったんです。
――なるほど。
菊池 気をつけたのは、アークとの関係性を、芝居やセリフのニュアンスで表現することですね。仲のよさや気安さ、それからかわいさを出すことを念頭にシナリオは書いていました。とくに序盤では、セリフのあとに「非難がましく」とか感情表現を書いていたんですよ。ト書きも、「ポンタ、眉間にシワをよせて」とか、かなり書いていましたね。
ただ、どうしても尺の関係があるので、ト書きや感情指定はちょっとずつ削られていきまして。最終的には最低限だけ残して「キュイキュイキューイ!」とか「キュキューイ……」と、セリフにその温度感を入れこむかたちになったんです。つまり……声優さん任せになったという話です(笑)。
――でもたしかに本編を見る限り、いろんな感情の「キュイ」が感じられます。
菊池 そうなんですよ。話が少しそれますが、キャストオーディション用の台本も自分が書かせていただいたんです。そのなかに「アーク」「アリアン」「ポンタ」と書いてあって。「えっ!? ポンタ!?」と驚いたんです。「『キューキュー』と『キュイキュイ』しか言ってませんけど」とお話すると、いろんな感情の鳴き声を台本形式にしてくれと。ですから、喜んでいるときのポンタ、非難するときのポンタと、いっぱい書いて提出しました。
――稗田(寧々)さんも、それに応えられる役者だったということですね。
菊池 はい。ポンタ役のために生まれてきたんじゃないかと思います(笑)。

■台本ひとつでお芝居を

――役者のお芝居面で驚かされたといったことは、ほかにありましたか。
菊池 アークだと、脚本作業中は声を渋い方で脳内再生していたんですよ。それが読者の思っているアーク像なのかなって。でも、小野監督が合流されたときに、素の状態とロールプレイしているアークとでメリハリをつける方針が明確になったんです。その瞬間に「マズイな」と。その時点の脚本で、そういうセリフ回しを前提に書いていなかったんですよ。でも映像を視聴して、前野(智昭)さんの演技を聞いて、まったく違和感がなかったので、あらためて役者さんと、方針を決めた監督、指示を出した音響監督の凄さを感じさせられました。
あとはアリアン役のファイルーズ(あい)さん。最初のセリフを聞いたときに、想像よりも声を低く作っているなという印象だったんです。ヒロインとして成立させるためには、もうちょっと高めの方がいいんじゃないかなと思えて。
でも、しばらく聞いていると、それが間違いだったことに気付くんですよ。気付くというか、そもそも前編でお話したように、アリアンは人に対する不信感を1話から出していって、その感情線の変化で作品を引っ張っていくわけで。その方針を立てたのは自分なのに、忘れてしまっていたんです。だから、「あ、そっちが正しいじゃん」と自分の方針を思い返してみたり(笑)。役者さんって、お芝居の指針にするのは基本的に渡された台本しかないじゃないですか。そのなかでキャラクターの解釈を凄く考えて演じられているんだなと、あらためて感じました。

■重装甲系か高機動系か

――アリアンについてはいかがでしょうか。前編でお話いただいたドラマを牽引する感情の変遷以外でおうかがいできることはありますか。
菊池 戦闘についてですかね。武器がレイピアに近い細身の剣なんですよ。レイピアって、突きで戦闘する認識が広く知られていますよね。
――そうですね。
菊池 だから戦闘描写を書くときに「そこ重視でもいいですか」と脚本会議で聞いたんです。そうしたら「そこまで再現できないから」と(笑)。結果、レイピアは史実では斬る剣でもあるようで「斬る」を組み合わせて殺陣を書こうとしたんです。でも突きの印象を持っている人も多いはずだから、一本デカい「突き」も入れたいと思って、アークとの最初の戦闘に混ぜ込んだという。一応わかってやってますよというエクスキューズですね(笑)。
あと、戦闘でいうと、アークを重装甲系にするのか、高機動系にするのかも悩みどころでした。大剣を持っていて、それを片手で扱っているとなると、敵の攻撃をガンガン受けてズバッと重い一撃を入れるタイプなのかなと。でも装備品は軽く扱えるらしいですし、ディメンションムーヴも含めいろんな魔法を使うから、それを組み合わせていくのかもしれないとも考えて。結果、派手になるのは高機動戦だからそっちにしようかなと。魔法戦士みたいな感じで殺陣は書いていきました。
――パッと見て、重たい感じなのかと思いきや、けっこう軽やかに戦いますよね。
菊池 そもそも重量がある感じでアニメーションをすること自体、すごく大変だろうなと思ったというのもありましたが。

■この世界に生きる者として

――戦闘面もさることながら、アークは骸骨ですから、芝居面についても苦労されたのではないですか。
菊池 いや、じつは骸骨で困ったことはないんですよ。それはキャラクターの特徴ですから。むしろそれを活かすかだけを考えればいい。骸骨なのにビールを飲むんだ、みたいに面白い方向に振れるんですよね。どちらかというとアークについては外面ではなく、むしろ内面について苦労がありました。
――内面、というと精神的な部分ですか。
菊池 もっと具体的に言うと、アークをどう成長させるかですね。アニメではそれほど立たせませんでしたが、原作における第1話の範疇で、盗賊を斬り殺しても動揺しない描写があるんです。「人を殺めたというのに自分の手にも感情にもそれほど強い衝撃が残ってはいなかった」との記述ですね。
――それは小野監督もインタビューで触れられていました。
菊池 つまり、彼の初期感情は平坦なのだろうと考えることにしました。わざわざそれを呟くということは、設定的にアークは精神の変化が大きくないのかなと思ったんです。
――なるほど。精神に変化がないということは……。
菊池 そう。精神的な成長が描けない。物語のカタルシスって、キャラクターが心情的に成長したときに生まれやすいじゃないですか。そこを描くのが難しいかもしれないなと。ですから、感情の取捨選択はかなり悩みました。後半になるにつれてのアークの感情の振幅は、原作のそれよりも大きいかもしれません。
ちなみに、アークの感情や設定絡みに関しては、ぜひとも原作小説を追っていただきたいなと思います。彼の本領は物語が進むごとにどんどん発揮されていくので、興味を持ってくださった方は、ぜひ原作を手にとっていただければと。
――そうですね。
菊池 で、話を戻して……アークの精神的な成長・変化の話。アークって、現実世界から精神だけがやってきて、ゲームの中に入っている感覚で動き始めているじゃないですか。だから、最終的にはこの世界の住人に寄り添えれば、彼が変化する部分が表現できるのでは、と考えました。一番わかりやすいところだと、第1話でローレンとリタが襲われているとき。あそこでアークは、襲われている出来事を「イベント」として捉えているんです。助けようか考えて、状況が悪化していく描写がありますよね。
――丘のようなところから見下ろしつつ静観していますよね。
菊池 そう。でも、ドラマが進んでいって後半になっていくと、アリアン、チヨメ、ポンタとの接触とともに、この世界の住人にナチュラルに寄り添い、溶け込んでいく。結果、そういった遊び感覚や決断力のブレが無くなっていくんだろうと思ったんです。そして、最後は迷いなく決断をして、みんなを守るために戦うかたちに持ってきたいなって。最初は傍観者として見下ろしていたアークが、この世界に生きる者たちと同じ世界で、同じ目線に立っている。そんな作品にできればいいなと思ったんですよね。

2022年4月26日 スタジオKAI 会議室にて



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