STUDIO KAI 櫂

『骸骨騎士様、只今異世界へお出掛け中』 上間康弘(制作プロデューサー)インタビュー【前編】

 目覚めるとMMORPGで自身が使用していたゲームキャラの姿のまま、異世界に放り出されていた「アーク」。その姿は、見た目が鎧、中身が全身骨格という”骸骨騎士”であった。
 ──正体がバレたら、モンスターと勘違いされて討伐対象になりかねない!? アークは目立たないよう傭兵として過ごすことを決意する。だが、彼は目の前の悪事を捨て置けるような男ではなかった!
 TVアニメ『骸骨騎士様、只今異世界へお出掛け中』シリーズインタビュー、第10回となる今回は、制作プロデューサーを務めた上間康弘に、本作がどのような経緯で制作されたのか話を聞いた。



2022年6月27日(金)

●公式サイト
https://skeleton-knight.com/


「なろう系」で一括りにされない作品性

――本作を制作するに至った経緯から教えていただけますか。
上間 (制作統括の)金子(文雄)さんと私は、もともと「マクロスΔ(デルタ)」や「戦姫絶唱シンフォギア」シリーズでおなじみのサテライトさんでお世話になっていて、そこからスタジオKAIに移ってきたメンバーなんです。その時にオーバーラップの岩﨑(篤史)さんにお声をかけていただいたのがきっかけです。移って早々に作品のお引き合いをいただいて、とてもありがたいお話でした。
――どんなところに原作の魅力を感じましたか。
上間 アークのキャラクター性ですね。嫌味が無くてガチオタなのが特にいいなと(笑)。アニメでも第3話Aパート冒頭で再現していますが、(「天空の城のラピュタ」の)ムスカのようなセリフを言ったりとか。現実のアニメやゲームなどのいろいろなリスペクトやオマージュがちりばめられていて、それをアークが楽しんでいる感じがあって。真面目なだけのファンタジーではないなとも思ったんですね。
いっぽうで難しそうだと感じたのが、なろう系で比較的早くからアニメ化されて大人気を博している「オーバーロード」との差別化でした。ただでさえ、異世界ものは乱立している状況で、しかも「オーバーロード」も甲冑に中身は骸骨という主人公。基本設定は全く同じなわけですよ。それに加えて大ヒット作品ですし、比較されることは容易に想像がつく。真っ向勝負しても被るだけなので、どう作っていくべきか。それがその時点で課題として考えていたことです。
ただ、じつは自分は、立ち上げから最後まで一貫して制作業に関わったことがこれまでほぼなくて、この作品がはじめてに近かったんです。また、当初作品の面倒を見る担当者が別にいたこともあって、そのとき自分が考えていた課題について、ちゃんと話したことはなかったと思います。
――上間さんも脚本会議に参加されていたと思うのですが、つまりは基本的にスタッフに寄り添うような参加の仕方だったということですか。
上間 はい。その当時ガッツリ意見を言ったということはなかったんじゃないかなと。ただ、最初はどういう絵作りをしていくつもりなのか、正直分からないな……とも思っていました。というのは、そのころは「この異世界で起きているドラマを真面目に描いていこう」との方針だったように思います。ただ、それだとこの異世界で起きている固有のドラマやキャラクターに興味をもってもらえることが前提で、さらにそれをシナリオ的にも絵作り的にも面白く描く必要がある。そして、それらがある程度以上飛び抜けていなければ、空気になるかもしれない、という危険性も感じていました。
――「オーバーロード」をはじめとした、なろう系で一括りにされるのでは、という危険性ですね。
上間 まあ、実際のところタイトル自体に「異世界」とあるので、あくまでもそのフォーマットの中でのお話ですけどね。ただ、少し脚本開発が進み、小野監督に入っていただいた頃から方針転換が行われていきました。同じくその頃、今回共同で制作を担当しているHORNETSの八田(正宣)さんに入っていただいて、一緒にこの作品のどこが面白いのかをあらためて議論したんです。小野監督の合流時点で、改めて自分の考えを整理しておかないと、何かを問われたときに回答できないなとも思って。そこで再度原作を読み直してみて、ここがポイントかもと思ったのは、アークが異世界に来て初めての街で、露天のおっちゃんが小さいながらもファイアを使えた、という描写でした。そこで「あ、これだ」と思ったんですよ。つまり、ファンタジーオタクの人間が憧れの異世界に来たときに、それをどう実感し、どういうリアクションをするのか。そこが大切な作品なのではと。そして、それは小野さんの方針と合致したように思います。小野さんはタイトルそのまま、「最強のキャラクターが大好きな異世界にお出掛けする」感じを狙ったのだろうなって。
――当初の「真面目にファンタジーを作る」路線から、だいぶ変わりましたね。
上間 そうですね。四の五の真面目に語ったところで、それは好きになってくれた人が、ちゃんとそこの深読みをしてくれればいいだけだよねと。そして、この方針が数ある作品群の中でこの作品が立ってくる方法論のひとつであるとも。そういうフォーカスの仕方をして、他作品とは別の価値を提示してもいいだろうと意識しました。
ただ、そもそもそれは原作から多くの人が自然と思い描くイメージでもあった気がします。そのうえでどこをどれだけ立てて、逆にどこをデフォルメするか。その程度は大きかったかもしれませんが、結果として多少なりとも話題にしてもらえる作品になったというのは、そういうことかなとも思っています。

作りきったあとの修正

――今西(亨)さんのキャラクターデザインはいかがでしたか。
上間 言うまでも無くとてもいいですよね。なんというか、力を抜いているようで、でも繊細な線のコントロールというか、そのあたりが絶妙で、それがこの作品に登場するキャラクター像にもマッチしていたと思います。キービジュアルなんかを見ても素晴らしいなって。あとはキャラクターデザインだけではなく、レイアウトの取り方や、画面の情報量コントロールの上手さにも脱帽しましたね。
ちなみに第1話のキャラクター面で特に良かったなと思うのは、ローレンが着替えに行くシーンです。アークに助けられたあと着替えに森の奥に行くシーンで、彼女の顔のアップのカットがあるのですが、それがとても可愛いくて。
正直、全カットをハイクオリティの絵にできるかというと、努力はしているけれど難しい現実がある。いっぽうで、息が詰まる絵ばかりが連続しても、それはそれで疲れてしまう。だからこそ、普通に流し見をしているなかで、ところどころにそういうキーとなるカットが必要だと思っているんです。今西さんは、そのグッと胸元を掴まれるようなものを提示してくれたと思います。「おい、よそ見なんかしてないでこっち見ろよ」ってね。じつは12本全部作り切った後、一部過去の話数にもどって、今西さんにテコ入れをお願いしたんですよ。
――作り終わったあとで?
上間 そう。例えば第2話のヒロインであるマルカをもう少しよくしてほしくて、そういうお願いをしたんですよね。
これに近しい話がもうひとつありまして……。さきほどお話したように、最終的に「オタクが大好きなファンタジー世界に迷い込んだら」とのフィーチャーの仕方に行き着いたわけですが、その方針のニュアンスまでが現場に伝わり切らなかったといいますか。私自身も、あがったフィルムを見て初めて実感することもありまして、そのあたりの微調整のために後付けで直したところもありました。第2話の「ジャイアントバジリスク、いただきましたー!」のカットなんかは、手前にいるアークのヘルメットのスリットを笑わせたんですよね。つまり、楽しんでいる方向にしたんです。これもまたフィルムがあがったあと、修正した部分でした。

共同制作ならではの豊かさ

――今回HORNETSとの共同制作だったこともトピックになると思うのですが、これはどうしてなのですか。
上間 当時はいろいろ不測の自体があって、制作チームをどうしようかなという状況が生まれていて。その事情が前提にありつつ、八田さんとは以前、「重神機パンドーラ」という作品でご一緒したことがありまして。とても頼りになる方でしたので、八田さんを軸に、彼の所属するHORNETSさんにも包括的にご尽力いただくような体制でできないかと考えたんです。共同制作という取組みがHORNETSさんにもメリットがあるように考慮しつつ、かつしっかり作品に入っていただくことで良い作品を生み出す原動力にもなって欲しいとの思いもありました。
――今回アニメーションプロデューサーという役職で立っているHORNETSの八田さんとの役割分担はどんなものだったのですか。
上間 ここまでペラペラしゃべっていますけど、じつは私の出自は製作委員会側で、制作業は本職じゃないんですよ。制作進行の経験もありません。そのため、制作現場における細かい制作知識が必要な、いわゆるラインプロデューサーの役割を担っていただきました。いっぽう、私はプロデュースやプリプロ、ポスプロ方面、あとビジネスサイドに集中するかたちでした。
――なるほど。HORNETSさんとの共同制作はいかがでしたか。
上間 なんといっても「共同制作のため、クオリティにばらつきがあった」みたいなことがなかったのがよかったです。HORNETSさんも実力のあるクリエイターがおられる会社で、総作画監督の田中穣さんや、モンスターデザインの長森佳容さんといった方々が素晴らしいお仕事をしてくださいました。田中さんは、「パンドーラ」でも多大なるご尽力をいただいて、もう足を向けては寝られない方です。また、長森さんはじつはモンスターだけじゃなくて、サブタイトルが出る時のエンブレムデザインもやっていただいているのですが、これもとてもいいですよね。じつはエンブレムデザインには別案もあったのですが、そちらもかっこよくて、どこかで露出できないかなって思っています。
HORNETSさんとの共同制作は、作品の豊かさに直結している気がしますね。

ステータス画面はいらない

――この作品を請けた際に、原作側からの要望はありましたか。
上間 オーバーラップの岩﨑さんからは、中身が骸骨であることは、毎回きちんと見せて欲しいと言われていました。甲冑姿だけでは中の人が骸骨なのかわからないですからね。それと、(エグゼクティブプロデューサーの)オーバーラップの原田(直樹)さんからは、「異世界ものにありがちなステータス画面は出してほしくない」と。
――ああ。異世界もののなかには自分のステータスをユーザーインターフェース込みで見られる場合がありますよね。
上間 そもそも小説、コミカライズ通してそういう演出を一回もしていないのですが、そこをやらない作品って意外とレアなんだそうです。普通はステータスウィンドウがポップアップして、レベルやスキルなどを認識したりすると思います。ただこの作品は、そもそもアークが最初から最強で、状況として成長していくのはアークの取り巻きたちなんですよね。
――アークの成長物語ではないと。
上間 その当時から原田さんとは脚本会議で「これはもう『暴れん坊将軍』や、『水戸黄門』ですよね」と話し合っていました。要は異世界時代劇なんですよ。時代劇だと主人公が最強で成長しないじゃないですか。周りがどうこうするだけだろうと。
――オーバーラップさん側で、他に脚本会議の参加者はいらしたのですか。
上間 担当編集の吉田(翔平)さんと、あと原作者の秤(猿鬼)先生も出ておられました。
――秤先生もいらっしゃったんですね。原作の設定面について聞かれたのですか。
上間 そうですね。あとは、細かい描写について、どういう意図だったのかうかがいました。アニメスタッフ側をとても尊重していただいて、大変ありがたかったです。
あと、脚本会議は初回からずっとリモートだったんですよ。でも、みんなあまりその経験がないころだったので、手探りでやっていて。秤先生も初めての打合せの際、カメラが不調だったようで付いてなかったんです。翌週以降復活するのかなと思ったら、そのまま最後まで同じで……。
――ああ。カメラはずっと付いていなかったんですね。じゃあ……。
上間 そう、お顔を知らないんです。だから、秤先生は我々にとって今もなお「正体不明の骸骨騎士様」なんですよ(笑)。

インタビュー後編はこちら



『骸骨騎士様、只今異世界へお出かけ中』インタビューシリーズ、他記事はこちら

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