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『骸骨騎士様、只今異世界へお出掛け中』 小野勝巳(監督)インタビュー【後編】

 目覚めるとMMORPGで自身が使用していたゲームキャラの姿のまま、異世界に放り出されていた「アーク」。その姿は、見た目が鎧、中身が全身骨格という”骸骨騎士”であった。
 ──正体がバレたら、モンスターと勘違いされて討伐対象になりかねない!? アークは目立たないよう傭兵として過ごすことを決意する。だが、彼は目の前の悪事を捨て置けるような男ではなかった!
 現在放送中のTVアニメ『骸骨騎士様、只今異世界へお出掛け中』。本作の監督を務める小野勝巳に、引き続きアニメ化にあたり意識したことについて聞いた。



2022年5月12日(木)

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どんどん3Dに振っていくから内心大丈夫かなと思っていました

――後編では主にキャラクターについてお聞かせいただければと思います。
先に技術面ですが、メインとなるアーク、アリアン、チヨメ、ポンタにはそれぞれ3Dが用意されていましたよね。
小野 できあがったものが、かなり精巧でね。本当に3Dはよかったです。とくに鎧ですね。3Dならいちいち描かなくて済みますし、メカ界隈の人じゃないと難しい造形なんですよ。
――アークは、鎧姿と骸骨姿だけしかないのでその判断なのもわかるのですが、他のキャラも3Dなのはどうしてなのでしょうか。
小野 いや、あれはね……僕がやりたいと言ったわけじゃないんです。「ロング(ショット)のときに、キャラを崩したくないので作りましょう」と制作プロデューサーの上間(康弘)さん側から提案があったんです。それに対して「できるならやってみたい」と応えたのが実際のところで。それにしても、ここまでできるとは思っていませんでした。技術的、スケジュール的、予算的にいろいろあるのだと思いますが、わりと3Dは融通の利かない場合が多くって、「それはできない」と言われることが多い印象があるんです(笑)。3D前提のタイトルでもそんなことを言われるから「なんだそりゃ?」って(苦笑)。こんなにやってくださる会社(オーラスタジオ)は初めてですよ。
――先程ロング用で、とおっしゃっていましたが、実際は寄ったサイズでも使っていましたよね。
小野 気づかないと思いますが、オープニング後半の馬車なんかも3Dですからね。お金もかかるから、基本はガイドとして使うくらいに思っていたんですけど「これ普通に使えるぞ。なんなら寄ってもいけるな」と思って。上間さんがどんどん振っていくから、「そんなにお金掛けてもいいのかな……」と唖然としていました(笑)。

大航海時代の価値観

――ヒロインの立ち位置であるアリアンについては、どのようなキャラクターだと捉えられていましたか。
小野 正直「変わったエルフだな」と思っていました。ダークエルフだけど褐色ではないのもファンタジーの文脈では珍しいですし。あとエルフ全体の話ですが、この世界では人間より下位の扱いなんですよ。通常のファンタジーだと、人間より上位であることが多いですよね。そこは作品の特色だと思ったので「大航海時代のようだ」とのセリフを足させていただきました。
ポリティカル・コレクトネスを標榜する社会では考えづらいですよね。僕はもちろん差別はよくないと思っています。ただ、いっぽうで過去に大航海時代のような「歴史」があったんだと認識することは、とても大事だと思っています。そういう価値観が歴史上かつて存在したんだということを、テレビ媒体でやるのは必要なことだなって。
――なるほど。アリアンについて個性を出すために工夫したことはありますか。
小野 ギャップですね。アークに対してヤキモチみたいな感情をぶつけたり、意外と可愛いものが好きとかね。でも、序盤はあえて冷たい感じを残しています。ファイルーズ(あい)さんの芝居も、当初あまりギスギスしてなかったので、「アークと打ち解けるまではナイフのように尖ってほしい!」とお願いしました。アークに出会って、打ち解けていって、可愛いところがいっぱい出てくる。そんなキャラクターだと思っています。今後もぜひ注目してほしいですね。
――チヨメとポンタについてもおうかがいできますか。
小野 チヨメは、あまり僕っ子にしないことを意識しました。
――どうしてですか。
小野 最初キャストの富田(美憂)さんが、男の子に聞こえるように作っていらしたんです。素の感じじゃなかった印象だったので、それはやめてほしいと。ですから、アフレコ時に修正していってもらいました。
――ポンタはセリフがないので、存在感を出すのが難しかったのではないですか。
小野 でも稗田(寧々)さんがいろんな「キュイ」で頑張ってくれてたから(笑)。確かに、小動物系の扱いって大変なんですよね。アークのいないときは、肩の中から出てきたり、常に頭や肩に乗せていたり、なるべく画面上にいるようにしました。それと、この作品ならではですが、鎧姿のアークの代わりに表情を作ってくれるんですよ。怒ってくれたりして、そこは本当に助かりましたね。

「あえて立たせなかった」台詞

――鎧姿だと、表情面だけでなくアクション面も大変なのではないですか。
小野 城などに忍び込むシーンが何度かあるのですが、鎧は音が鳴るから向かないんです。だから、ディメンションムーブで落ちる前に移動を連続することになるのですが、足が着く前にムーブし続けるので難しかったですね。同様に、ディメンションムーブしながら会話するのも大変でした。いっそ飛べたらよかったのですが……。オフ台詞(画面上にキャラクターが映っていない際の台詞)のときは、ディメンションムーブで移動している風の音を入れつつ、会話を進めたりしました。音でどうにか誤魔化したんです(笑)。
――なるほど。引き続きアークについてですが、原作以上にMMORPG好きが強調されていますよね。これは意図的なものでしょうか。
小野 キャラ性を少し足しています。とはいえ、(原作に記述がなくても)実際好きなんだと思いますよ。本人も言っていますが、浪漫の塊でしかない天騎士という職業をMAXまで育てているわけですし、何百何千時間とやりこんでいるのだろうと。
――ちなみに、小野監督自身はゲームをされるのですか。
小野 中高とTRPGをやっていました。「D&D(ダンジョンズ&ドラゴンズ)」からやっているんですよ。僕が始めた時にエキスパート・ルール・セットまでしか出てなかったんです。で、マスターまではやったかな。飲み会でシリーズ構成の菊池(たけし)さんをマスターとしてプレイしたこともありますよ。
――相当やり込んでいたんですね。アークの話に戻って、原作ではいい人であることは分かりますが、具体的な性格は、アニメほど定義されていないように思います。
小野 原作から連想される性質を意図的に入れ込んでいないところもあるんです。「人を殺めたというのに自分の手にも感情にもそれほど強い衝撃が残ってはいなかった」といった記述は、あえて立たせないようにしました。原作だとのちの伏線になるのかもしれませんが、今回のシリーズで拾う原作の範囲だけ考えると、アークが酷い人間のように思われかねない気がして。
そもそも1話では、ローレンたちを襲う盗賊をNPCにするかどうかから悩みました。NPCにして「イベントが始まった」とアークが言えば、やっつけていい流れになるでしょうから。そんなふうに、アークの性質面については、けっこう悩んで。アニメではオタクっぽくて、カッコよすぎない感じで統一していきました。

カッコよすぎない魅力

――カッコよすぎない感じ、ですか。
小野 ええ。ステータス最強とはいえ、この世界には慣れていないですし、戦いについては素人ですからね。キメすぎないで欲しかったんです。4話でチヨメがクナイを投げてきたときも、打ち合わせでは「当たってもいいですよ」と言っていたんですよ。でも、さすがにカッコ悪すぎてね。やっぱりそこは避けさせました(笑)。
――前野(智昭)さんのお芝居も「カッコよすぎないアーク」に拍車をかけていた気がします。
小野 そうですね。お芝居で印象に残っているのは、原作にもあった『(天空の城)ラピュタ』のムスカパロディで。
――「どこに行こうというのかね」ですね。
小野 あれはみんなで悪ノリして、「もっとやってくれ!」って(笑)。前野さんが「え? もっと?」と驚いていました。あとはポンタに噛まれて「ほら痛くない」もそうですね。そんなところもあって、アークはオタクっぽいなと思っていたんです。
前野さんは、ハマり役でしたね。外面の騎士らしいアークだけでなく、オタクっぽい内面のアークもちゃんと出してもらえて。その二面性もあって、最終的には魅力的なキャラクターになったと思います。

2022年4月23日 スタジオKAI 会議室にて


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