『骸骨騎士様、只今異世界へお出掛け中』 広沢範光(3DCGディレクター)インタビュー【後編】

『骸骨騎士様、只今異世界へお出掛け中』 広沢範光(3DCGディレクター)インタビュー【後編】

『骸骨騎士様、只今異世界へお出掛け中』 広沢範光(3DCGディレクター)インタビュー【後編】

 目覚めるとMMORPGで自身が使用していたゲームキャラの姿のまま、異世界に放り出されていた「アーク」。その姿は、見た目が鎧、中身が全身骨格という”骸骨騎士”であった。
 ──正体がバレたら、モンスターと勘違いされて討伐対象になりかねない!? アークは目立たないよう傭兵として過ごすことを決意する。だが、彼は目の前の悪事を捨て置けるような男ではなかった!
 現在放送中のTVアニメ『骸骨騎士様、只今異世界へお出掛け中』。前編に引き続き、本作で3DCGディレクターを務める広沢範光に話を聞いた。

2022年6月2日(木)


■2Dと3Dの最大の違い

――前編に引き続き、アークについてうかがいます。表情が分かりづらいキャラだと思うのですが、感情面を表現するための工夫などありましたか。
広沢 1話でアークが楽しくなって体を使ってはしゃぐシーンがあるのですが、そこはちょっと大げさに動きをつけたりしました。お芝居の方でなんとか伝わるように、オーバー目にしたつもりです。
――そもそも3Dは、芝居が無機質になりがちなんでしょうか。
広沢 2Dとの一番の違いは表情だと思うんですよ。身体はちゃんとキャラクター設定に沿っていれば大丈夫なのですが、表情は似ないんですよね。無表情になりがちなんです。
作画の方たちは、経験上、どんなアングルでもカッコいい顔にできたり、眉毛の角度が少し違うだけで感情が表現できたりするじゃないですか。でも意外とCGは、そういうのが難しくて。全体的に表情が弱くなってしまうんです。怒っている顔をしていても、どれぐらいかが分かりづらい。記号になってしまうんですよね。そこはすごく難しいなと思いました。
――表情以外でも、作画側との合わせには相当気を遣われたんですか。
広沢 そうですね。撮影処理については、とくに作画とのマッチングを気にしました。
今回、撮影さんが作画用に作った処理の感じをどう3Dに落とし込めるかが、ひとつの課題だったんです。コンポジットデータをいただいて、3DCGの撮影バージョン的なものをこちらで一度作り直してみたりしました。
――なるほど。御社側で、3Dと2Dの撮影処理を似せるように調整したんですね。
広沢 はい。できるだけCGと手描きとが同じように見えて、同じ画面の中にいることが大事だと思ったんです。

■アリアンとふたつのポニーテール

――アリアンの3D制作にあたっては、どのようなご苦労がありましたか。
広沢 メインヒロインですから、やっぱりかわいさ重視ですよね。今西(亨)さんの起こされたキャラクターデザインに、いかに近づけるが大切で。そのために、アリアンも、アークと同様に正面と横から見たときの見た目とで、顔のパーツを微妙に変形させています。
――そうなんですね。
広沢 設定画の横と正面とで微妙に印象が違ったんです。そこも株式会社KATACHIさんにお願いして作っていただきました。ポニ―テールの位置も変わっています。正面から見たほうがちょっと高いんですよ。
――なるほど。正面のアングルで、ちゃんとポニ―テールを見せないといけないと。
広沢 そうなんです。でも、そういった工夫をしてもまだうまくいかないカットもあって。「骸骨騎士様」は、カットごとに「作画、CG、作画」が入れ変わる作品なのですが……。
――前編でうかがいましたね。そういう意味で珍しい作品だと。
広沢 そうすると、CGのときだけ少し頭が大きかったりするんですよ。前後の作画はカットごとに一番かわいらしく見えるように描かれるわけです。そのためには、整合性がおかしくなるときもある。
でも、CGはモデルを作ったらずっと変わらないので、前の作画カットと比べるとおかしく見えることが多いんですよね。とくにアリアンはそれが顕著でした。なので、じつはそういうときは、カット単位で顔を小さくしていました。
――それは、具体的にはどのように行っていたのですか?
広沢 主にラッシュムービーをチェックさせて頂いて、それで違和感があったら調整するというフローでした。
――結構後工程なんですね。それにしても随分身軽ですね。
広沢 そうありたいと思ってます。

■ヒラヒラの上にヒラヒラが

広沢 あと、アリアンは普段服の上からヒラヒラと動くローブを被っているじゃないですか。で、中の服もヒラヒラしてるんですよ。そこが大変だったんです。
――ヒラヒラしたものの上に、ヒラヒラしたものが被さっている状態なんですね。
広沢 そうなんです。そうすると動いたときにパーツとパーツの干渉が大きくなるんです。すぐにめり込んでしまって、なかなか制御が難しかったです。
――では、芝居させるたびにいちいち調整していたんですか。
広沢 そうなんです。だから早く話数が進んで、ローブを脱いでくれないかなと思って(笑)。同じように腰回りも小物が多いので、これらもめり込み面で苦労しましたね。
――なるほど。ほかに芝居面でのご苦労はありましたか。
広沢 アリアンは揺れるものが多いんですよ。衣装だけでなく髪の毛も揺れますし、アクションも多いキャラですしね。パッと動くだけで後からついてくるものがいっぱいあるので、そのあたりを自然に見せるのに苦労しました。
――そのあたりはプログラムで自動化できなかったのですか。
広沢 ある程度はそういう機能も使いました。単純にまっすぐ歩いているときは、自動で計算させています。ですが、やっぱり芝居がかった動きやアクションだと違和感が出るんです。あと、振り向きもパーツが干渉しやすいので難しいんですよね。なので、ある程度までは自動化しつつ、最後は手作業で直す場面がちらほらありました。

■忍者走りの難しさ

――チヨメについてはいかがですか。
広沢 モデリング時に苦労したのは髪の毛ですね。少し変わった髪型をしているので。この子も縦前横のバランスで髪の毛が変わるんですよ。だからといって、あまり変形させるわけにもいかないので、ベースの髪を作ってるときに相当修正を入れています。あと耳の付け根は隠すようにしました。
――確かに、どういう構造で生えているのかわからないですものね(笑)。
広沢 そうなんです。キャラクターデザインの時点で隠れていたのですが、CGも髪で隠れています。
――芝居面ではいかがですか。
広沢 走り方が忍者走りなんですよ。両手を後ろにして走るんですが、そこの動きをつけるのが、他のキャラとは違った難しさがありました。
――そういった場合は、先に2D用の動作参考があるのですか。
広沢 そうですね。作画の方からラフ原をいただいて、それに沿ってCGの方で作っていきました。

■「ポンタは液体なんだ」

――ポンタはいかがでしょうか。
広沢 造形面からいくと、まず尻尾ですかね。フサフサ感が大事だなと。正面から見たらフサフサに見えるかもしれないけど、横から見たらへたっているとか。そうならないよう調整が大変でした。先のギザギザしているところも、できるだけちゃんと作ろうと四苦八苦していましたね。
――なるほど。
広沢 ポンタって面白いキャラクターなんですよ。肩に乗ってたり、地面にいたり、はたまた頭の上にいたりするじゃないですか。そうすると、ポンタの大きさがころころ変わるんです(笑)。
――でも、3Dで作っているわけですから、モデリングの大きさは一定のはずですよね。
広沢 そう。先程のアリアンでも似た話をしましたが、作画で描いた他キャラクターが、カットごとに変化しているんですよね。
「あれ? ポンタが大きくないか?」ということが、何度も出てきてしまったんですよ。だからいちいちポンタのサイズを変えないといけなくて。たびたび「ポンタって一体どのサイズが正しいんですか?」って担当者からため息交じりに言われたんですが、「いや、決まりはないんだ。ポンタはもう液体だから」と答えていました(笑)。
――ポンタという概念なんですね(笑)。動きの面ではいかがでしたか。
広沢 大変でしたね。とことこ走るだけでも脚の動きのバランスが難しくて。担当アニメーターが、ずっと犬の動きを観察していました。あと、歩きや走りに伴って、尻尾も自然に揺らさないといけないので。ポンタが動いたあとにちょっと遅れるような感じで、動きの面でもやわらかさが出るように意識しました。
まあ、でも大体のカットでアークに乗っていてくれるので、その点はよかったなと。そのときは顔の芝居だけ頑張っていますね(笑)。

■ドラゴンに追いかけられるアークたち

――いま挙げていただいた以外で3Dの使いどころはありましたか。
広沢 一番大きなところは馬車と、それに付随する馬ですかね。あと馬車に乗ってる御者も3Dでした。馬車がかなり出てくる作品でしたから、結構重宝しましたね。馬車はデザインはいただきましたが、色についてはお任せいただけたので、CG側で木の質感などをつけていきました。サスペンションもあって、きちんと稼働するように作っていたりとこだわったつもりです。
――なるほど。ちなみに、オープニングにも馬車が登場しますが、あれも3Dですか。
広沢 後ろからドラゴンに追われるシーンですよね。あの一連は馬車だけではなく、ドラゴン以外フル3Dです。
――あ、あれはアーク、アリアン、ポンタも全部そうなんですか。
広沢 はい。背景も含めて3Dなんです。
――背景もですか。そうは見えませんでした。
広沢 ありがとうございます(笑)。先程、作画と3Dとが同じように見られるのが大事だとお話しましたが、それこそが自分たちの目標だったので嬉しいです。

■引き出しを増やす作業

――今回の作業にあたって、オーラスタジオの現場の様子はいかがでしたか。
広沢 この作品って、アクションもあり、歩くだけもあり、止めもありで、カットによっての難易度が豊富だったんですよ。だからベテランも新人も一緒に取り組める作品だったんです。中堅の子たちがすごくいいカットを作ると、新人が「すごい! あんなに動くんですね!」と言って驚いていたりね。そういう和気あいあいとした感じで進んでいけたので、ありがたい作品でした。
それと、今回強く思ったのは「意外といろいろやらせてもらえるんだな」ということでした。
――なるほど。他の現場ではないことなんですか。
広沢 そうですね。いつもは、作画さんに何か提案するのはおこがましいというか。そんな気分だったのですが、今回はシリーズ初めての元請けだったことや、制作プロデューサーの上間(康弘)さんの存在もあって、演出家さんの意図を汲み取った提案ができた気がするんです。「こういうことができますよ」と、スタッフさんの引き出しをCGでどんどん増やしていけたのが楽しかったんですよ。こういったお仕事が、今後増えていくといいなと思いますね。

2022年5月16日 高円寺ファミリーレストランにて



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