『骸骨騎士様、只今異世界へお出掛け中』 小野勝巳(監督)インタビュー【前編】

『骸骨騎士様、只今異世界へお出掛け中』 小野勝巳(監督)インタビュー【前編】

『骸骨騎士様、只今異世界へお出掛け中』 小野勝巳(監督)インタビュー【前編】

 目覚めるとMMORPGで自身が使用していたゲームキャラの姿のまま、異世界に放り出されていた「アーク」。その姿は、見た目が鎧、中身が全身骨格という”骸骨騎士”であった。
 ──正体がバレたら、モンスターと勘違いされて討伐対象になりかねない!? アークは目立たないよう傭兵として過ごすことを決意する。だが、彼は目の前の悪事を捨て置けるような男ではなかった!
 現在放送中のTVアニメ『骸骨騎士様、只今異世界へお出掛け中』。本作の監督を務める小野勝巳に、作品の魅力やアニメ化にあたり意識したことについて聞いた。前後編でお届けする。

2022年5月6日(金)


■「真面目」なことが弱点に

――監督が本作に参加された経緯からお聞かせいただけますか。
小野 じつは、僕は途中参加なんですよ。事情があって。入ったときにはシリーズ構成も、脚本も半分くらいはできていたんですね。
――そうだったのですね。その時点でできていた脚本をご覧になられていかがでしたか。
小野 面白いと思いました。骸骨もかっこいいし、アークという最強キャラもいいなと。ただ、(その段階の脚本は)真面目過ぎるなとも思ったんです。
――真面目過ぎる? それは監督にとってマイナスポイントだったのですか。
小野 ううん。真面目な作品は、真面目に見てもらえればちゃんと面白いんです。でも、テレビの場合、しっかり見てくれている方には申し訳ないのですが、キャッチーさが求められることが増えましたから。最近は1クールものばかりで、じっくり作品を楽しむ土壌もなくなってきていますし、アニメの本数も増加していて、僕自身が1話目を見て(視聴継続を)決めることもあるんですよね。
――作り手でもそういう視聴スタイルを採ることがあるんですね。
小野 我々のような職業の人間が、こんなことを言ってていいのか……。僕自身、昔はキャッチーさが前面に押し出される作品が嫌いだったんですよ。若い頃、『ふたりはプリキュア』が始まったときに、「なんだ、このえげつない番組は! てんこ盛りにすればいいわけじゃないぞ!」と憤った覚えがあります。でも、今考えれば……。このくらいやらないとダメなんだなと。
――小野さんが監督された『戦姫絶唱シンフォギア』シリーズも、てんこ盛りでしたよね。
小野 あのときに「今はもうそのやり方を採るべきなんだ」と感じたんです。『シンフォギア』に関しては、あの作品なりのやり方が肌に合って。馬鹿馬鹿しいことを派手にやるスタイルが好きだったから(笑)。
話が少し逸れましたが、脚本を読んで、「これだけだと他のタイトルに埋もれちゃうかもな」とは感じたんですね。

■作品を立てるために

――外見が骸骨なのは珍しいと思うのですが、そのフックだけでは足りなかったのですか。
小野 兜をつけているので、実際骸骨が出てくるのはそう多くないんです。じつはそれもあって骸骨パートは(原作より)なるべく増やしました。心情描写のときには鎧を透けさせて骸骨を見せ、毎話数出るように工夫しています。ただ、そうするにしても、作品を立てるため、脚本に工夫が必要だなと思ったんです。
――すでに半分できていたわけですよね。にもかかわらず、そこで脚本の変更があったんですね。
小野 そうなんです。1話から手直しをお願いしました。
――具体的にはどのような工夫をされたのですか。
小野 キャッチーな掴みが必要だと頭を捻って見つけたのが、漫画版の第3話で登場する「こんにちは、アークです」との記述でした。「これだ!」と。自分が本読み(=脚本開発打ち合せ)に入ったときに、「これを毎回やろう」と提案したんです。
――挨拶が、作品を立てるために重要だったと。
小野 それによってアークの異世界における「お客さん感」が立ってくるんです。最強過ぎて、この世界を楽しむ余裕があることを強調できるなと。それに日記風の導入になれば、視聴者が見るための敷居も低くなりますよね。
――「こんにちは、アークです」で、作品をある種フォーマット化したのですね。
小野 はい。さらに1話は「見るに堪えないので不意打ちしてみました」と入れて、ガツッと視聴者を掴みたいなと。結果、ある程度うまくいったのではないかと思います。
――原作では、政治的な動きがかなり詳細に描かれていますよね。アニメではある程度簡略化されていますが、これもわかりやすさという意味合いでのキャッチーさだったのですか。
小野 いや、自分が入る前は(政治周りについて)もっと抜いてあったんですよ。
――あ、そうだったんですね。ではむしろ小野監督が入って、原作側に近づいていった。
小野 政治劇がやりたかったわけではないんです。ただ、それがないとアークが「勝手にやっている」感じが出ないんですよ。世界では真面目な話が進んでいるんだけど、アーク自身は関係なく進んでいく、みたいな(笑)。それが面白さにつながるはずだと思ったんですね。
――「空気が読めない人」みたいな立ち位置ですか。
小野 そう。アークは災害のように進んでいくことが肝要かなと。そのためには、政治劇を真面目にやっている人を入れた方が立つんです。アークを立たせるために政治劇を入れたいという順番でしたね。

■口パクがない主人公

――先程主人公が骸骨であることはキャッチーだという話をしましたが、いっぽうで表情感が難しいですよね。そのあたりのご苦労はいかがでしたか。
小野 鎧状態になると、口パクもないですからね。だから撮影画面をずっと揺らしているんです。
――揺らしている……? ああ。じわPAN(※1)のような処理を入れているんですね。
小野 いえ、そういうことではないんです。フィルム時代のアニメって、必ず(映像が)揺れていたじゃないですか(※2)。その空気感というか、揺れを再現しようと思って。
――ええっ……? あえてアナログに近い揺れを常時起こしているということですか。
小野 口パクさえあれば、アップで止まっていても(映像として)持つんですけど……。
――つまり口パクがなくても、その揺れがあれば情報量が増して見えると。
小野 そうそう(笑)。
――あまり聞かない手法です。監督の過去作品でもやられていたのですか。
小野 いや。今回初めてやりましたね。でも、前から思っていましたよ。デジタル化が始まった頃は「止まっているのが気持ち悪いな……」って。その頃からもう20年くらい経っているんで、いまやそれが普通なのですが、それをこの作品で再現すれば足りないものを補えると思ったんです。機会があれば注目して見てもらえると面白いかもしれませんね。

(※1)ゆっくりとカメラを横に振るカメラワークのこと

(※2)フィルムにはパーフォレーションと呼ばれる穴が開いており、それを歯車で送りながら撮影をするが、その穴には若干の遊びがあるため、撮影された映像にかすかな揺れが発生する。

■「俺たちは天使だ!」

――キャッチーな点では、オープニングにも驚かされました。楽曲もですが、映像もかなりハッチャケていますよね。どのようなコンセプトで臨まれたのですか。
小野 アークは異世界をお散歩中だから、その世界を楽しんでいる感が欲しかったんです。それもあって、世界遺産の旅にするため、そういった背景美術を見せていこうと。あとは温泉に入ってお酒を飲んでいるみたいな楽しさですね。で、調子に乗って「ポンタ、これは葉巻というのだぞ」と吸ってみたら「ゲホッ」となるとか。あとはアークに振り回されているアリアンとポンタの描写も大事かなと。映像面ではそのあたりを意識しました。
――なるほど。オープニング楽曲は、発注にも関わられたのですか。
小野 そうですね。発注するときに「アークのキャラソン(キャラクターソング)がいいよね」って話をしたんです。そのうえで「どんな曲調がいいですか」と問われて、「『俺たちは天使だ!』がいいです!」って。
――「俺たちは天使だ!」(※3)……というと、あのドラマのですか?
小野 そうです。SHOGUNが歌っていたオープニングの「男たちのメロディー」みたいな感じだと。発注された側は困っていましたけど(笑)。で、楽曲が上がってきたところで、「いやもっと男の浪漫を入れてほしい」と歌詞を修正していただいてもいます。「我の矜持のままに」は僕を含めた制作スタッフからの提案まんまです。
――「俺たちは天使だ!」のイメージは映像にも反映されているのでしょうか。
小野 それこそ、足でブレーキを掛けて馬車を止めるのは「俺たちは天使だ!」のオープニングで車の底が抜けていて、靴でブレーキをかける、あのシーンを思い浮かべていました。あれは靴底がなくなりますけど(笑)。
――あのオープニングに出てくる女の子は、今後本編に登場するんですよね。
小野 あ、出てこないです。
――出てこない(笑)。
小野 出てこない(笑)。ドラゴンも勝手に出しただけです。誰かに怒られるかなと思ったのですが、怒られなかったから、まあいいかって(笑)。この作品全体に言えることですが、視聴者の方にはとにかく笑ってもらえればいいやと思っていたんです。

(※3)「俺たちは天使だ!」は1979年に放送されたテレビドラマ。麻生探偵事務所に所属する面々が、毎回難事件を解決していく。個性豊かかつコミカルな芝居が話題を呼び、人気を博した。

インタビュー後編はこちら


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