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『骸骨騎士様、只今異世界へお出掛け中』 広沢範光(3DCGディレクター)インタビュー【前編】

 目覚めるとMMORPGで自身が使用していたゲームキャラの姿のまま、異世界に放り出されていた「アーク」。その姿は、見た目が鎧、中身が全身骨格という”骸骨騎士”であった。
 ──正体がバレたら、モンスターと勘違いされて討伐対象になりかねない!? アークは目立たないよう傭兵として過ごすことを決意する。だが、彼は目の前の悪事を捨て置けるような男ではなかった!
 現在放送中のTVアニメ『骸骨騎士様、只今異世界へお出掛け中』。今回は本作で3DCGディレクターを務める広沢範光に、本作特有の3DCGの役割について話を聞いた。



2022年5月27日(金)

●公式サイト
https://skeleton-knight.com/


立ち呑み屋での出会い

――先んじて確認なのですが、「骸骨騎士様」におけるCGの使われ方は、かなり珍しいのではないでしょうか。
広沢 ああ……そうなんですよ。非常に珍しい部類だと思います。少なくとも、僕はこれまで経験したことがなかったです。
――なるほど。そのあたりのことを今日はうかがっていければと思います。といいつつもまずは、本作参加の経緯からお聞かせいただけますか。
広沢 制作プロデューサーの上間(康弘)さんからのお誘いでした。元々の経緯からお話すると……僕、お酒が好きでして(笑)。よく高円寺のあたりで飲みに行ってたんです。で、もう10年以上前に、立ち呑み屋さんに妙に明るいお兄さんがいてね。お互いその店の常連で、よく飲むようになったのですが、それが上間さんだったんです(笑)。当時僕はいろんな会社を転々としていた状況で「CGのお仕事をやっています」と。「わりと業界近いかも」なんて言いあっていたんですね。
――会社同士のお付きあいからじゃないんですね。
広沢 どこで働いていて、何をしている人かも知りませんでした(笑)。それからも個人的に交流が続いていて、「そういえば僕、会社作ったんですよ」とお話したんです。そうしたら、ある日お電話をいただいて。それがあるゲーム作品のプロモーションムービーを作らないかという話だったんです。「やります!」と二つ返事で、そのときはCGディレクターとして参加させていただいて、CGアニメーション制作も弊社で請け負わさせていただいたんです。
――では、そのお仕事が「骸骨騎士様」につながったのですか。
広沢 ええ。それから1年経ってないくらいで、またご連絡をいただいて、今回の話になったんです。喫茶店でお茶を飲みながらその場で見積もりをやって(笑)。
――随分アクティブですね(笑)。
広沢 じつは今回、弊社(オーラスタジオ)はTVアニメーションシリーズにおける、初めての元請けなんですよ。気合も乗っていて、その流れで参加することになったんです。

好きなことを、好きなままで

――先程会社を作ったとのお話がありましたが、それがオーラスタジオさんなんですね。少し脇道に逸れますが、設立して何年目ですか。
広沢 今年(2021年)で五年目ですね。
――まだお若い会社なんですね。設立理念などはありますか。
広沢 好きなことを、好きなままでいられる会社になればいいなって。
僕、この仕事が今でも大好きなんですよ。死ぬまでやりたいと思っているんです。でも、人によっては、入った会社の環境が悪かったり、折り合いがつかなくて、CGを嫌いになって辞める人がいるんですよね。それが凄く悲しくて。だから自分のところでは、好きなことが好きなままでいられる現場にしたいなって。その環境作りには気を遣っているつもりなんです。
――そこが一番なんですね。アニメのお仕事が中心なんですか。
広沢 いまはそうですね。オーラスタジオって、そもそもアニメをやってなかったんですよ。僕が元々転々と会社を移っているときに、白組さんにもお世話になったことがあって。それもあって、質感バッチリの、リアル系のCGを多く作ってたんです。
――たしかに、白組は実写映画含め様々なジャンルを数多く手掛けられていますものね。
広沢 ええ。とくにジャンルを限定することなく、CMも遊技機、映画などをやっていたのですが、アニメ業界でシェア率が高い3dsMaxを使っていたこともあって、少しずつお声がけをいただくようになったんです。だんだんアニメの仕事を好きになっていく人が社内でも増えて、いまでは7割くらいがアニメになってしまったんです(笑)。

「寄りでも使える」3D

――さてさて、ようやく本題ですが、そもそも今回の3DCGへの依頼はどういうものだったのでしょうか。
広沢 「引きでも絵が崩れないようにするために、メインキャラに3Dを使いたい」と言われたんです。
――冒頭でもお話しましたが、そもそもその依頼自体、かなり珍しい部類なのではないですか。
広沢 そうなんですよね。いつもはどちらかいうと逆というか……。モブだけを3Dにして、メインのキャラクターを手描きにする、はよくあるんですけど。
――なるほど。たしかに逆ですね。
広沢 はい。ほかにも、キャラクターは手描きでロボットは3Dとか。アイドルもので、普段は手描きでライブシーンだけ3Dとか。そもそも3Dメインで、顔のアップだけ手描きにするとか、そういった使われ方はします。
でも、今回みたいにメインのキャラクターについて、作画と3Dが綿密に入り組んでる構成は、まず通常のフローではないですね。
――かなり精巧にできているので気付きづらいですが、そもそも3Dのカットが多い作品のように思えます。どれくらいあるのですか。
広沢 おそらく最終的に1話あたり30~40ぐらいになっているかと。
――相当多いですね(笑)。具体的にはどのキャラクターのモデルを作ったのですか。
広沢 アーク、アリアン、チヨメ、ポンタのメイン4人です。どのキャラクターを起こしましょうかとなったときに、初めからお話がありました。
――小野監督のインタビューで、「寄りでも使える」とお話しされていたのですが。
広沢 さっきお話したように、引きが前提でしたので、その想定はあまりしていなかったのですが……。今回アーク以外のキャラクター3体は、株式会社KATACHIさんに発注させていただいたんですよ。そのモデルの出来からして素晴らしくて。
――そうだったのですね。
広沢 できるだけデザイン画に似せようと思って発注したのですが、正直これなら多少寄っても大丈夫かなと僕も内心思ってました(笑)。わりと予算も使えたので、その分いいものを上げてくださったのかなという感じがします。
――エンディングなんてCGオンリーですよね。
広沢 エンディングは上間さんが別のクリエイターの方(石川寛貢)をアサインしてらっしゃったんです。僕らは作成した3Dのデータをお渡ししただけでして。そこから後は、たぶんおひとりで作られてると思います。
――エンディングに耐えうる3Dモデルでもあったわけですよね。
広沢 いや、あんなに寄っていいのかな(苦笑)。でも表情がすごく自然で、質感もよくて。素晴らしいエンディングだなと思いましたね。

角度で変形するキャラクター

――お話が前後しますが、依頼を受けて原作を読まれた際、苦労しそうだなと思えた点などはありましたか。
広沢 なんといってもアークの鎧ですよね。むしろこれがあるから「メインキャラを3Dで」なんだろうなと。パーツも多いですし、デザインも曲線が多いので、アニメキャラとして落としこむのは大変そうだなと思いました。だからこそ、アークのモデルは社内で、細かく調整しながら時間をかけて作らせてもらいました。
――3Dで曲線は難しいのですか。
広沢 曲線のほうが微妙にバランス取りや、形状把握、形状起こしの過程において、ハードルが上がってくるんです。
――いろんな角度のカメラワークがあるでしょうから、そういう意味でもバランスが難しかったのではないでしょうか。
広沢 キャラクター設定は、角度によってパーツの大きさが若干違う印象があったりするんです。とくにアークで顕著なのが肩パーツでした。物そのものもそうですが、金色の柄についても、正面とサイドで大きさが変わっているんですよね。
――キャラクターデザインの今西(亨)さんとしては、見栄え重視でアニメ的な嘘を付いているんでしょうね。
広沢 おそらく。ただ、厳密に正面図を起こすと、横から見たときに違和感があるんですよ。でも3Dは正確なのが前提ですから、ある角度を再現しようとすると、別の角度を捨てないといけなくなる。
――痛し痒しですね。では正面角度を採用されたと。
広沢 いえ……実はポンタ以外の全キャラクターは、正面から見たとき用、横から見たとき用で、モデルをちょっと変形させてるんですよ。
――あ、そうなんですか!
広沢 (笑)。
――パーツだけ変形させているんですか。
広沢 そうです。アークであれば肩パーツと胸パーツもそうだと思います。だから、実際には正面から見たときと横から見たときで、ちょっと形状が違うんです。
――2パターン用意された、ということでしょうか。
広沢 正確にはそれも違っていて。正面角度のものを滑らかに変形(モーフィング)させて、アングルによって変えているんです。
――ああ。どの角度でも変形させて対応できるんですね。
広沢 はい。カットによってちょうどいいところになるよう調整しています。なるべくキャラクター設定のイメージを壊さないようにとの工夫ですね。

マントと作品性

――アークについて、ほかに大変だったところはありましたか。
広沢 マントですね。大きくて、いつも弛んでるじゃないですか。あのシワが3Dだと難しくて。ですからアークのマントは、実は2種類用意してあるんです。普段立ってるときに垂れ下がっている状態と、ディメンションムーブで飛ぶときや風になびいてるときとの状態で、シワに違いがあるんです。
――それはさっきのモーフィングとは違って、状況によって本当に差し替えていると。
広沢 はい。そういうことですね。
――なるほど。しかし、2Dの作画でマントが靡いたりするのは相当描くのが大変ですから、3Dの面目躍如ですね。
広沢 そうですね。冒頭の話に戻りますが、ロングでも絵が潰れないというのは、「3Dだからこそ、細かいシワでもちゃんと描ける」こととイコールなんですよ。むしろ我々はそこを求めてられているのかなと思って。「ちゃんと作り込もうね」とスタッフと話していました。マントがカッコいいかどうかで、作品性も少し変わってきますし、なによりマントあってのアークですからね(笑)。

インタビュー後編はこちら



『骸骨騎士様、只今異世界へお出かけ中』インタビューシリーズ、他記事はこちら

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